マイクロ流体デバイス技術のユニークな特性を利用してマイクロ・ナノ空間を制御する研究を実施しています。例えば、微小空間内の層流現象を利用して、微小空間内で分化因子を時空間的に制御して、万能細胞(ES/iPS細胞)のヘテロな集団分化を促します。マイクロ流体プローブ等も作製して細胞組織集団の一部だけに刺激を与え、その周りの挙動を調べることで細胞間の相互作用を調べる研究も展開しています。流体力学の妙を利用して、微粒子を操作するマイクロ流体デバイスも開発し、受精卵をはじめとするシングルセル(単一細胞)操作も実現しています。また流体力学だけで熱力学も利用することで、放射能汚染水で問題になっているトリチウム除去装置の開発も進めています。
マイクロ流体デバイスを細胞培養に応用する場合、力学的な刺激や化学的な刺激を時空間的に制御することができます。例えば、血流のようなせん断応力や伸縮に伴う刺激や、液性因子の有無や濃度変化による刺激はマイクロ流体デバイスでによって厳密に制御することができます。この特性を生かして、様々な臓器の人工的なモデルを作製しています。これまでに、脳血管、神経、肝臓、小腸、腎臓、精巣、卵巣などのモデルを構築して創薬や医療分野へ展開しています。さらに、組織間、あるいは臓器間の相互作用を再現するために、複数の臓器を一つのデバイスやプレート上で共培養するシステムも実現し、臓器間の非線形的な相互作用の存在を見いだしています。現在はその原因分子となるものをOrgan-on-a-chip factorと名付けて、詳細に調査しています。
MEMS技術を活用して、微小空間を計測するデバイスを開発しています。例えばチップ上の細胞動態をリアルタイムで観察するために、電気化学マイクロセンサや光学的マイクロセンサを開発し、Organ-on-a-chipに搭載する試みを進めています。細胞膜の機械的特性を計測するために、機械的には計測することが難しい細胞の引張試験デバイスも開発しています。このデバイスを使えば一辺に大量の細胞の引張試験を実現することができます。マラリア原虫に寄生された赤血球は細胞膜が硬くなるので、マラリアの感染診断などに応用されます。また、腎結石の自然排石メカニズムを解明するために医療CTデータから透明な腎臓モデルを作製して、ヒトの運動における結石挙動の可視化研究も進めています。実験データをもとに流体シミュレータを構築して、患者でも使える結石自然排石予測アプリも開発しています。